農業創生なくして地方創生なし!
~「若者のための農業」創生を~
本委員会は、2012年度より、「貿易自由化後の日本農業のあるべき姿の検討」を主たる課題として2年間の調査・研究を開始し、2014年4月に2年間の集大成として最終提言「攻めの農業を目指そう!『儲かる』、『魅力ある』、『地域を活性化させる』で若者に夢と希望を与える」を発表した。
そして、2014年度は、『守る農業』から『攻める農業』への大転換を実現するために、日本農業の競争力強化策につき、更に研究すべく委員会活動を継続することとした。
日本の農業は約8兆5,000億円の農産物を生産し、約4兆9,000億円の付加価値を生み出す産業ではあるものの、日本経済全体に占める比重は年々低下しており、2013年の日本の国内総生産(GDP)に占める農業の割合は約1%、農業従事者が総就業人口に占める割合は約3.6%にすぎない。また、農家の平均年齢は66.2歳と年々高齢化が進み、若者にとって『魅力ある産業』にはなっていない。
しかしながら、多くの地域においては、農業は地域に根差した基幹産業であり、地域の活性化には無くてはならない一大産業である。長年の円高による産業の空洞化の結果、国内工場は封鎖され、地域経済は落ち込み、若者も職を求めて地域から流出している。農業は観光業と並ぶポテンシャルのある産業であり、地域に若者を呼び戻すためにも、農業を地方創生の柱として、再生・活性化を目指すべきだ。政府は、全国一律の農政から、地域毎の多様な農業に適合するきめ細やかな農政を実施し、地域の独自性を尊重すべきである。
我々は、『日本の農業のあるべき姿』として、以下の4つを掲げている。
- 持続可能な『儲かる農業』 = 競争力強化(生産性向上、収益力向上、高付加価値)
- 若者に夢と希望を与える『魅力ある産業』 = 企業の参入、若者の参入
- 地域を活性化する『成長産業』 = 食料安保、国土保全、地域活性化(地方の基幹産業)
- 守る農業から『攻める農業』 = 関税の撤廃・削減、輸出も含む需要の拡大
2014年7月に訪問した北海道(帯広)では、まさしく『日本の農業のあるべき姿』が実現されているのを目の当たりにした。そこでは、大規模化が進み、先進的農業の試みがなされていた。しかしながら、エネルギーコストや、厳しい労働環境にある畜産業における人手不足が深刻な問題であることも認識した。
また、2014年12月に訪問した九州(熊本県、宮崎県)では、農業に積極的に取り組み強いリーダーシップを保有する知事の下、自治体職員が農業振興の取組みに積極的に係わっており、また、一方で、農家とともに儲かる農業に取り組む農協に出会う機会に恵まれた。そして、農家自身も従来型農業(守りの農業)からの脱出にチャレンジしており、変革への勢いを感じた。
一方、国家戦略特区の実情を調査し課題を洗い出すため、2014年9月に中山間地農業の改革拠点である兵庫県養父(やぶ)市を、2014年10月に大規模農業の促進が期待される新潟市を訪問した。土地の流動化を促進し、民間の大規模投資を呼び込み、人の流れを招き入れるためには、規制改革のみをインセンティブとするのでは不十分であり、優遇税制・低利子融資・補助金の付与といった実質的な事業の後押しが必要であると感じた。
そして、2014年12月に台湾・シンガポールを訪問し、本年度の活動目標の中心に据えた『攻める農業』への転換の観点から、日本の農産品・加工食品の輸出倍増に向けた施策を検討するための市場調査を行った。台湾には、すでに多くの日本の農産品・加工食品が溢れてはいるものの訪日台湾人の数も増加し、国民の10人に1人が訪日している状況になっており、地域の特産品の掘り起しの可能性が広がっている。また、シンガポールにおいても日本食ブームが起きており、やり方次第では、まだまだ日本からの輸出には拡大の余地があると感じた。
食料における最重要項目は、安心・安全であり、一度問題を起こせば、信用は一夜にして失墜する。輸出に際しては、日本の農林水産品・加工食品の安心・安全のブランドを毀損せぬよう、残留農薬、放射性物質規制、検疫等に対して品質保証体制の拡充を実施しなければならないことも、痛感させられた。
グローバル競争は年々加速度的に深化しており、2015年1月15日に発効した日豪EPA、2015年の基本合意を目指す日EU・EPA、そして最近になってTPP(環太平洋経済連携協定)も合意への機運が高まっている。日本は、貿易・投資立国という原点に立ち戻り、FTA、EPAを積極的に推進すべきである。農産物重要5項目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖)についても関税を撤廃・削減し、直接支払による農業支援に切り替えることも想定し、政府は柔軟性をもって早期の交渉妥結を実現してもらいたい。
一方で、政府はスピード感をもって農業改革を推し進め、農業を地方創生の柱に据えることで、農業の再生と地域の活性化を同時に達成すべきだ。そして、内向きの『守る農業』からグローバル経済の中で『攻める農業』への大転換を図り、国内のみならず海外をも市場と見て、日本の農産品・加工食品の輸出や訪日観光客へのPRにもっと力を入れるべきだ。そして、新しい時代の農業創生のために、民間企業の資本やノウハウを利用すれば、若者に雇用の機会を創出するとともに、将来への夢と希望を提供することにつながる。
ここに、農業改革委員会の2014年度の提言を行う。
平成27年(2015年)3月
一般社団法人 関西経済同友会
農業改革委員会