提言・アピール等

平成31年度予算・税制改正大綱に望む
~財政破綻の危機感の共有とイノベーション創出に資する成長戦略の実行を~

2018.11.07update

一般社団法人関西経済同友会
経済政策委員会

1.はじめに
政府は本年6月、『経済財政運営と改革の基本方針』(骨太の方針)を閣議決定した。財政再建に向け、来年10月の消費税増税が明記され、今般、予定通りに実施する旨表明されたが、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)黒字化の達成目標は2025年と5年先送りされた。また、これまで設けていた歳出抑制の数値目標が削除される等、財政健全化に向けた強い意志が感じられない

我が国の財政・社会保障制度の持続性について多くの国民は疑問を抱いており、将来に対する不安が足元の個人消費を抑制している。また、今後は高齢化の進展に伴う社会保障費の増大のみならず、想定を上回る自然災害が多発するなかで防災対策の必要性も高まるとみられる。将来の景気悪化や災害等に対する政策余地を確保するためにも、景気が堅調な平時において、痛みを伴う改革に取り組む必要がある。

10月2日に発足した第4次安倍改造内閣には、長期政権の締めくくりとして、今後3年間のうちに財政健全化に向けた道筋の明確化と成長戦略の実現が求められる。本提言ではまず、我が国の財政の持続性・財政破綻の可能性を検証し、健全な危機感を共有した上で、将来世代に負担を先送りしないための仕組みや社会保障制度の改革を求めるとともに、イノベーションの促進を中心とした要望を行い、財政健全化と経済成長の両輪による我が国の再生を望む。

2.我が国財政の持続性と財政破綻の可能性
我が国は歳入の4割近くを借金に依存し続けた結果、政府債務残高は国内総生産(GDP)の2倍を超え、主要先進国では最悪の水準にある。仮に現行の制度が維持された場合、高齢化に伴う医療費・介護費の増加や将来の金利上昇によって政府債務は膨張を続け、2060年には名目GDPの5倍近くに達するとの試算もあり、財政の持続可能性には極めて強い疑問がある。

それでは、政府が改革を先送りし続けた場合、“財政破綻”はいつ起きるのだろうか。市場で国債が買われなくなり、国が資金繰りに窮する状況を“財政破綻”と定義する場合、国債への信認が失われれば、いつでも起こりうる。財政収支の改善が進まず、政府債務残高が年々膨張している我が国の国債は、市場参加者からの信認を失う確率が年々高まっているといえる。

もっとも、日本は厳しい財政状況にもかかわらず、国債利回りは国際的にみても低水準で推移してきた。この背景としては、国債の9割近くが国内で保有され、海外保有比率が極めて低いことが挙げられる。経常収支が黒字の我が国では、民間部門の家計・企業がともに資金余剰主体であり、国内の金融機関等を通じて国債が安定的に購入されてきた。加えて、現在では日銀が国債の4割近くを保有しており、大規模な緩和政策によって金利上昇が抑制されている。

ただし、国債消化を支える家計の金融資産は、高齢化の進行によって貯蓄取り崩し層が増加する結果、2020年代後半には減少に転じるとの見方がある。また、企業は本来、経済が活性化するなかで投資を拡大し、資金需要が増加していく姿が望ましく、企業の資金余剰を国債消化の原資としてあてにすべきではない。そうなると、今後は国債消化の海外投資家への依存度が高まるにつれ、格付に応じた高い金利を要求され、金利上昇圧力が高まると想定される。

ひとたび国債の消化が困難になれば、国債価格が下落して金利は大幅に上昇し、家計や企業にも多大な影響を及ぼす。1980~90年代には新興国(中南米、ロシア等)で国債の債務不履行(デフォルト)が発生し、激しいインフレによる経済の混乱を経験した。また、先進国においても、2011~12年の欧州債務危機ではギリシャ、アイルランド、ポルトガル等の国債が信用を失い、政府が借入を継続できなくなる事態が発生した。これらの国では、年金・医療の給付カットや負担増を余儀なくされる等、厳しい措置が行われている。

世界的な金融危機や災害等、財政破綻につながる事由は突発的に発生しうる。また、高齢化・人口減少の進行とそれに伴う家計貯蓄の取り崩しにより、国内の国債消化余力が低下することで、財政破綻につながる可能性は着実に高まっている。財政危機に陥ってからでは遅く、以下では、財政・社会保障制度改革及びイノベーションの促進に向けた提言を示す。


3.提言
【提言1】独立財政機関の設置により将来世代の視点を踏まえた財政運営を

【提言2】持続可能な社会保障制度の構築に向けた抜本改革に着手を

【提言3】イノベーションを促す成長戦略の実行と予算・税制措置の拡充を
 (1)社会保障費・消費税増税対策
 (2)成長戦略の重点分野


4.おわりに
これまで財政再建に取り組んできた国々は、いずれも財政破綻に直面した結果ともいえる。
痛みを伴う改革の先送りを続け、財政危機に陥るのを待つのか、それとも、健全な危機意識をもって改革に取り組み、着実に財政健全化に取り組むのか、それがいま問われていることである。
財政の持続可能性を維持するのは政府の責務であり、「骨太の方針2018」で示された新たな財政健全化計画策定後の初となる今回の予算編成は、財政再建への正念場である。国民の将来不安を払拭するためにも、政府は持続可能な財政・社会保障への改革の見取り図を示すことを期待する。

以上

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