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提言・アピール等

地域コミュニティでつくる新たな「支縁社会」
~国民全員が社会保障の担い手に~

2016.05.02update

2016 年(平成 28 年)5月
一般社団法人 関西経済同友会

新しい社会保障のあり方委員会

経済の高度成長が収束し、人口増加が終焉する「定常型社会」に移行して久しい。出生率の低下による人口減少と高齢化の加速により社会保障給付費が急増、将来の年金や医療・介護に関わる費用負担の増大が国民の不安を募らせている。

戦後の社会保障は、憲法で定められた「国民の生存権を保障するための国の責務」とされ、国による社会保障諸制度に一貫して依存してきた。しかしながら、2015 年度の社会保障関連費は 31.5 兆円に達し、一般会計歳出総額の 32.7%、税収の約 6 割を占めるまでに膨れ上がっている。増え続ける社会保障費は、1000 兆円を超える国の累積債務の根源であり、制度に大きく頼る姿勢には限界がある。

古来、日本は神仏儒を尊び、仁・義・礼・智・信の五徳を重んじ、中でも「仁」の精神を至高とする相互扶助の国であった。聖徳太子の十七条の憲法や、その後の 8 世紀の養老律令の戸令等は、「徳」に根ざした相互扶助の精神に基づくものであり、中世、近代を通して戦前まで「村落共同体」の相互扶助が機能してきた。しかしながら、戦後は、地域コミュニティの担い手が地域から切り離され、企業戦士として経済の成長と拡大の担い手となった。その結果、相互扶助の基盤であった地域コミュニティが弱体化し、地域のつながりが希薄化するとともに助け合いが困難になり、いわゆる「社会的孤立」が大きな課題となっている。

社会保障の本来の意義は、一人のリスクを相互扶助により支え合うことであり、例えば独居高齢者の見守りや子育て、災害時の備えにおいて、かつての日本は地域住民の相互扶助の支え合いをベースに乗り切ってきた。財政負担の増大で社会保障制度が限界に達する今、本委員会では、制度論に終始するのではなく、制度と補完関係にあるべき地域の相互扶助機能の回復、つまり相互扶助を支える自立と利他の精神を醸成する環境づくりが喫緊の課題ではないかとの考えで、地域コミュニティ機能を回復する施策について検討してきた。

現在、政府主導で進めている社会保障給付費の削減策については優先順位をつけ、歳入の欠損を補う手立てを着実に実行すべきだが、相互扶助の精神に立ち返り、地域コミュニティのつながりを取り戻さないと持続可能な社会保障の実現は難しい。「国や地域社会に貢献する心」への転換が今こそ必要である。かつて米国のケネディ大統領は「国が何をしてくれるかではなく、国のために何ができるかを考えよう」と訴えた。「新しい社会保障のあり方」とは、国の財政のみに頼るのではなく、①地域コミュニティの相互扶助の機能を回復し、互助・共助の取り組みを強化することであり、「何をしてもらえるか?」 「いくらもらえるのか?」ではなく、②国民一人ひとりが自立し、「社会のために何ができるのか?」を自ら考え、行動できる国民になるための意識変革に挑戦するプロセスそのもの、と捉えたい。本提言は、そうした考えに立ち、国、自治体に加え、広く、企業、そして国民一人ひとりに訴えたい。