東日本大震災からの復興に向けた第1次提言
~一日も早い復旧・復興と日本経済の回復に向けて~
東日本大震災が発生してから1か月以上が経過したが、阪神・淡路大震災より被害規模や被災エリアもはるかに大きい未曾有の災害であり、被災地では今なお被害の全容を把握できない状況が続いている。また、今回の大震災では、原発事故が同時に発生し、その結果生じている首都圏の電力供給不足ともあいまって、経済への影響は、マインド面からの需要後退、サプライチェーンの寸断による生産の停滞・縮小、さらには放射能汚染の風評被害による農業・漁業への打撃、工業製品の輸出の障害、外国人観光客の激減など、日本経済全体にも広がっている。
今後、相当の期間、東日本で経済活動の停滞が生じることは必至であり、さらに、日本の中枢を担う首都圏の機能の低下も避けられないなど、戦後初めて経験する危機にわが国は直面している。このような時こそ、関西はその力を最大限に発揮し、阪神・淡路大震災の経験を活かしつつ復旧・復興を支援するとともに、日本経済を力強く支えていかなければならない。
まず急がれることは、被災者の一日も早い生活の安定や被災地の経済基盤の復旧であり、政府は復旧にかかわる補正予算を早期に成立させるとともに、強力な権限と責任を持った司令塔を早急に組織し、被災地の声を一元的に把握し、スピード感を持って施策を実行していく必要がある。さらに、復興段階では、既存の制度や前例にとらわれない大胆かつ果敢な取り組みが必要であり、また、日本が抱えるリスクを改めて整理し直し、その上で、日本の中枢機能の配置、国土構造などのあり方を根本から考え直し、新しい日本の姿を描かなければならない。
関西経済界としては、日本全体で被災地の復興を支えるという考えのもと、西日本で広域的に連携し、継続的な復興支援と復興を支える日本経済の早期の回復、さらには災害のリスクにも対応できる日本経済の創生に取り組んでいく決意である。
そのため、当面の課題に関して、下記のとおり、第1次提言をとりまとめ、政府・関係自治体へ必要な対策を要望するとともに、被災地の意向を確認しつつ、継続的な支援行動に積極的に取り組む。
記
- 政府の予算投入と強力な執行体制整備
- 政府の第1次補正予算の早期成立
被災地の一日も早い復旧に向けて、2011年度第1次補正予算の早期成立が必要である。第1次補正予算には、水道・電気・ガス・通信などのライフラインや医療・教育施設の復旧への支援、仮設住宅整備、基幹的な交通・物流インフラの復旧、被災地の事業者への金融支援強化などに十分配慮し、財源は経済危機対応・地域活性化予備費の活用と歳出のマニフェスト事項にかかわる施策の見直しにより、相応の金額を確保すべきである。 - 財政健全化と両立する復興財源確保
関西社会経済研究所による推計では、ストック被害額は約17.8兆円にのぼる。その被害額の大きさから、本格的な復興にあたっては、阪神・淡路大震災時を大きく越える規模の予算投入が必要になるが、日本の危機的な財政状況からは、単純に国債の増発に頼ることは慎むべきであり、財政健全化と両立する復興財源の確保に取り組まなければならない。 - 司令塔の組織化による強力な執行体制整備
政府の予算投入と施策の展開を実効あらしめるためには、政府において、強力な権限と責任を集中させた司令塔(「東北復興院(仮称)」)を速やかに組織し、本拠地を被災地に置き、被災地の声を一元的に把握し、スピード感を持って予算執行や施策を展開していく必要がある。
同時に、西日本は、代替生産・インバウンド振興・国際物流などの重要な担い手であり、オールジャパンの力を結集し、早期再生を期すため、被災地と西日本をつなぐ国の機関(例えば、「東北復興院(仮称)西日本本部」)を設置されたい。 - 自治体同士が1対1で支援する「日本版対口支援」の仕組みづくり今般の震災支援では、関西広域連合が、構成自治体に主な支援先を割り当て、現地に連絡員や避難所支援のための職員を派遣し、被災地のニーズに合った人員・物資などの支援を行っている。特に、復旧・復興の核となるべき基礎的自治体が大きな被害を受けたことから、その行政機能を補完しつつ、被災地のニーズ把握を行うことでより効率的な支援となっている。こうした被災地外の自治体と被災自治体を組み合わせ、責任を持って「1対1」で支援する「日本版対口支援」の仕組みづくりを復興プロセスにおいて拡充すべきであり、政府は法制化により財政措置も含めて強力に後押しすべきである。
- 政府の第1次補正予算の早期成立
- 福島第一原子力発電所事故の早期収束
福島第一原子力発電所事故については、4月17日に東京電力より事故の収束に向けた当面の道筋が発表されたが、関係者には事態の早期収束に引き続き全力を尽くすことを強く求めたい。収束に向けたプロセスでは、実施中の対策と進捗状況について、政府と東京電力は正確でわかりやすい情報を国内外に逐次情報提供してもらいたい。 - 復興支援の強化と日本経済の早期回復に向けた取り組みの強化
被災地への継続的な復興支援とともに、当分の間、震災で影響を受けた日本の生産や雇用を支え活性化させるために、関西や西日本が可能な限り経済面で貢献する必要がある。そのことが被災地の復興も支援していくものとなる。また、海外に向けては、国際的な風評被害により、貿易や観光等の面で、安心安全という日本ブランドへの信頼が揺らいでいることから、政府には日本ブランドの維持・回復、風評被害への対応に強力なリーダーシップを発揮してもらいたい。
関西経済界としては、以下のとおり、関西広域連合などの自治体や東北経済界と連携しつつ継続的な復興支援を行うとともに、西日本としての日本経済の早期回復に向けた取り組みを実行していく。そのために必要な対策を政府・自治体に要望する。- 関西経済界による継続的な復興支援に向けた取り組み
- 東北・北関東の農水産品、畜産品、工業製品等の購入キャンペーンを行う(関西でのフェア開催支援、東北経済界等による“BUY東北運動”への支援など)。会員企業には、その収益の一部を被災地への寄附に当ててもらうよう要請する。
- 放射能汚染の風評被害により打撃を受けている農水産品、畜産品に対しては、経済団体のホームページにおいて、関係機関ともリンクした安全性に関するタイムリーかつ正確な情報提供の仕組みを構築する。
- 東北・北関東の被災企業、また首都圏の電力供給不足等から一時的に関西へ生産や事業をシフトさせる企業に対して、空き用地・建屋・オフィス・公営住宅・社宅を廉価で提供してもらうよう、自治体や会員企業に要請する。
- 東北・北関東の被災企業の代替生産先探しなどに関するビジネスマッチング機会を提供する。
- 被災者の雇用拡大への協力を会員企業に要請する。
- 被災地や首都圏での開催が難しい場合、国際会議やイベントの開催を関西で積極的に受け入れるよう、自治体、大学、学会、コンベンションビューロー等に働きかける。
- 被災地や首都圏での研究の継続が難しい研究機関の研究員(家族も含む)の一時的な受け入れ、代替の研究設備・スペースを廉価で提供してもらうよう、自治体、大学、研究機関に要請する。こうした支援策については、西日本全体としての取り組みとして広がるよう、西日本各地の経済団体にも協力を働きかける。
- 日本の経済活動を西日本で支えていくために必要な対策の要望
- 西日本が日本経済を支えていくための供給面に関する政府の情報提供-西日本と東日本の製品別や業種別の供給能力、震災発生後に得られたサプライチェーン情報などから、西日本として日本経済を支えていくために必要な部品、部材、資材等の供給面に関する情報を政府が提供すること
- 西日本の企業が被災者の雇用を行うことへの支援-被災者の雇用に対する助成金
- 東北・関東の企業が西日本へ一時的に事業シフトすることへの支援-立地のための税制上の支援(固定資産税の減免等)工場立地法や都市計画法等の運用の弾力化や迅速な処理初期の投資資金や運転資金に関する公的金融支援強化
- 西日本での国際会議やイベント開催への支援-公共の会議施設や展示会場の廉価使用、開催経費に対する補助
- 日本ブランドの維持・回復に向けた対応の強化
海外においては、震災被害の範囲が日本全体にまで及んでいるとの誤解、原発事故による放射能汚染への過度な懸念や誤解が、直接間接の風評被害として、農水産品・畜産品はもとより、工業製品にまで広がっている。また、海外からの訪日観光客・ビジネス客の激減も日本全国で生じている。日本ブランドの維持・回復に向けて、政府においては、震災からの復旧・復興、原発事故への対応について、海外に向けて正確でわかりやすい情報を一元的かつタイムリーに発信すべきである。
特に、海外において、日本からの輸出品の放射線検査を強化する動きがあるが、政府は輸出品の放射能汚染に関する安全証明を強化(政府による証明書の発給、検査体制の充実、検査費用の補助など)するとともに、合理的な基準によらず行き過ぎた規制を行う国に対しては、政府が早急に是正を申し入れるべきである。
訪日ビジネス客・観光客に関しても、震災被害を直接受けていない地域まで、行き過ぎた「渡航自粛」勧告等の措置を行っている国に対しては、政府が早急に解除を申し入れるべきである。震災対応の事態が一段落すれば、復興支援のためにも、政府は、海外からのビジネス客、さらには観光客の回復に向けた強いメッセージを発し、官民連携によるPR活動を積極的に行っていく必要がある。 - 被災地の本格復興と日本経済創生戦略(仮称)の早期策定
当初の復旧と復興については、緊急性を要することから、政府の司令塔が強力かつ集中的に推進していく必要がある。被災地の本格的な復興計画づくりの段階になれば、阪神・淡路大震災の創造的復興の経験から、地域が主体となるべきであり、政府は、人的・技術的な支援はもとより、特区制度の活用を含めた十分な財政措置や速やかな規制・制度の改革により、地域の意向を最大限に尊重し強力にバックアップするという役割に転換すべきである。地域主体の復興推進体制として、被災自治体による広域連合を形成し、政府は必要な権限と財源を移譲し、一元的かつ広域的に復興事業にあたれるようにすることが有効である。
また、東日本の本格復興を支援しつつ、日本経済が再び成長をとげていくためには、今回の大震災の経験や教訓を踏まえ、政府は、日本全体の英知を集め、「新成長戦略」も取り込んだ「日本経済創生戦略(仮称)」を早期にとりまとめ、実行していくべきである。その際、首都圏の電力供給不足の問題については、この夏を乗り切るための当面の対策にとどまらず、2年間程度で電力供給安定化をめざす総合プランを示すべきある。また、中枢機能の東京一極集中の是正、安心安全かつ強靭な国土構造の再構築、道州制と基礎的自治体の強化による地方分権の推進など、リスクを十分に認識した国のあり方について真剣な議論が行われるべきである。これらの議論に、今後、関西経済界としても積極的に提言していく。
- 関西経済界による継続的な復興支援に向けた取り組み
以上
2011年4月26日
公益社団法人関西経済連合会
大阪商工会議所
京都商工会議所
神戸商工会議所
社団法人関西経済同友会